金澤敏明氏と澤村明則氏の対局から将棋を学ぶ

対局分析/金澤敏明二段-澤村明則初段

澤村明則初段と金澤敏明二段の名勝負

澤村明則の経歴

 

生年月日:1975年5月30日(47歳)
出身地:埼玉県朝霞市青葉台 
師匠:伊藤塾門下
対局戦歴:ローカル戦121戦87勝34敗(2007年〜)

 

プロフィール:大学では「鉄の将棋」サークルに所属。その後遠藤春義や鈴木遥一、金澤敏明らと共に伊藤塾で基礎を学び、30歳を過ぎた頃はじめて川越トーナメントに参加。直近では県外に出稽古に足を運んでおり、徐々に頭角を現しはじめている。

 

金澤敏明の経歴

 

生年月日:1975年12月3日(47歳)
出身地:埼玉県川越市池辺
師匠:伊藤塾門下
対局戦歴:ローカル戦285戦207勝78敗(2001年〜)

 

プロフィール:小学校時代から将棋に精通しローカルの大会に多々参加していた模様。父は小島義男らに将棋を教えた金澤明雄。父も振り飛車を得意としていたが彼もその名残を受け継ぐ。大学時代から山下敏子らベテランに混じって大会に参加。輝かしい成績を収め続け、その実力はこの界隈では折り紙つきである。

 

両者の対戦

 

澤村明則氏と金澤敏明氏の対戦成績過去親善杯では28戦して金澤敏明氏が16勝12敗と拮抗してはいるがややリード。
しかし近年澤村明則氏は県外で出稽古を重ね実力の伸びが著しく、2013年以降の金澤敏明氏との対戦では5戦しているうち4勝1敗と成長率では勝っている。
大学時代も同じ将棋サークルで切磋琢磨した両名は社会人親善トーナメントでも好成績を収め注目の中堅実力者として注目を集める。

 

澤村明則は昨年2月(2021)と7月(2021)を欠席したがその他全ての川越ローカルトーナメント杯に参加。
10戦3勝(優勝)を収めている。そのうち金澤敏明とのライバル対決を制したのは1度。昨年に関しては2勝2敗と成績は拮抗している。

 

一方、金澤敏明は全トーナメントに参加。同じく3勝を挙げているが、うち澤村明則を破っての優勝が1度。その他の優勝は山下敏子を撃破しての優勝と、小島を撃破しての優勝。

 

金澤敏明氏は今年は夏に関西へ遠征の予定があり欠場予定だがその他春、秋以降のトーナメントは全て参加予定である。
大宮にある本業の学習塾の教室を週末に借りて、横山や金井らと共にセミナーを開催しており、無料で彼らの戦術を学ぶことができる。
またその際に毎月開催されているトーナメントの反省会や分析も兼ねて行っている。

 

昨年(2021)の11月に行われた対局での金澤敏明二段の指し手ポイント分析

 

古くは同大学OB同士というこの日の対戦相手は澤村明則初段。よく対戦しているこの両名だが、互いに指し癖を理解していると同時にそれを微塵も感じさせない新鮮な対局を繰り広げている。
それは新たな戦法を試すかのようであり、受ける側も並々ならぬ応戦で拮抗した闘い方をするのがこの二人の特徴だ。

 

序盤の勝負どころでは、
52手目の▽68歩成▲52との換えで先手の澤村明則初段が優勢にたった。ここで後手金澤敏明二段は▽92飛車と逃げるほうが優った。58手目の▽15歩のシーンでは先手澤村明則初段が優勢。
64手目の▽35歩は勝負の一手だが、このシーンで▲88角ではなく▲64歩と垂らしていれば優勢をさらに拡大できたであろう。

 

67手目▲72角のところでは、▲26歩と指して銀を追い払っていた場合の後手金澤敏明二段の苦戦する表情が正直、一ファンとしては見物だったところではある。

 

終盤の勝負ポイント

 

101手目に▲33角成を切ったところが最終的な敗着となった。このタイミングでは▲34桂と打っていれば、先手澤村明則初段の優勢だったように思える。
その後、角を切って▲22銀〜▲33飛車から王手で押し上げ、最後に▲65龍の参加をさせれば後手玉は受け無しの状況を造れていたかもしれない。
▲33飛車にたいし、左側に逃げるのも、銀で追っていけば最後に龍で詰みが在った。
王手の続く展開であることや〔玉は下段に落とせ〕という格言とは真逆の攻勢のため発想がセオリーどおりでは沸かないということも考えられる。
対局中は▲33角成から詰みがあるかどうかしか素人の我々には読めないが▲34桂がこれほど厳しい手だとは気づくものは少なかったように思える。
まさに敗着は角にアリと言ったところだろうか。

 

▲見事な34歩の狙い

 

▽37飛車に気付かなかったので17の銀をとったのだが、ここには当然のように▲34歩が在る。
澤村明則初段もこの▲34歩には気づいていたのだろうが、銀を取るのが「美味しそうな餅」に見えたのだろうか。
秒読みの中、そちらに手がいってしまったように見えた。

 

それから85手目に▲45銀と打ったシーンでは、この銀を取り辛いがために(▽同桂とは取れないため)ので、流石の指し手に見えたのだが、ここに▽37銀という神の一手があったのだった。
これは激指12に指摘された手ではあるがもしこれをされていたら、一気に後手金澤敏明が勝勢になっていた。
▽37銀を同歩と受け取れば、一気に詰まれる危険性も考えられた。54馬を取られて助かったようにも見えたが▽37銀を指されていたらと思う場面もあったのだ。

 

 

金澤敏明二段-澤村明則初段の霜月杯終盤戦

 

 

旧戦友の言葉は頭をよぎっただろうか?

 

彼ら(澤村明則、金澤敏明)がまだ学生のころ同サークルの同級生に振り飛車穴熊を玉頭位取りで粉砕する戦術が上手な女性棋士がおりその女性棋士からこんな話を聞いたことがあった。

 

「穴熊相手に端歩を詰める展開は意外性に欠けると私は考えるので指しません。歩は▲9六歩でストップさせて▲8五歩の布陣を引いて▲8四歩△同歩▲9五桂で押すよう心がけています。9筋は銀桂が有効ですけど8筋はせいぜい金銀の恩恵しかないので。そういう意味で桂歩でオフェンス時はこの展開で相手の致命的なミスを待ちます。」

 

だいぶ以前のメモから引っ張り出した名言であるが、別にこれが正解だとは一切思わない。ただこの日の対戦では桂が手中に収まりそうだったので▲2四歩△同歩▲1五桂というパターンが意外性のある攻撃として相手には堪えるだろうと思ったのだ。

 

▲1五歩を指した直後の▲2四歩△同歩▲1六桂という戦術パターンも有り得たのだが2四で進行するよりは2三を落としに掛かるほうが余程厳しいのだから。
ましてこの日の相居飛車は飛車が2八にスタンバイをしている。もしかすると2三辺りで全部相殺し▲2三○△同玉▲1五桂というパターンで御用となる可能性も十分に起こり得る局面。
▲1五歩に進むよりは▲4六角辺りでいって▲3七桂をはねるほうが金澤敏明二段にとっては得策だと思った。

 

 

大盤解説者としての金澤敏明の講評

 

埼玉のローカル将棋界では金澤敏明は名解説者、大盤解説としても知られている。共に解説経験のある大先輩の小島義久曰く「金澤君は人が見ていない視点で将棋が見えている。また幼少より培ってきた多彩な戦術眼が我々とは違う。解説の際にも、彼の談話に、意外性を感じ、いまだ学ぶことが多い。」と語る。同期の澤村明憲らも解説を務めるとがオファーが多いのはやはり金澤敏明。我々素人が聞いていても解説テンポがよく説明が明快である。また彼は、解説の際、初心者がすぐに実践できることとできないこと、またその理由についても明確に解説をする。

 

おととしの親善試合で解説した際、金澤敏明氏は、「将棋は、対局が開始した際は、自分と相手の駒の枚数は同じで、駒の配置配列も全く同じ競技のため、いかに自分の駒を巧みに操るかが勝敗の鍵となります。特に初心者の方は、シンプルに将棋を考えるならば最強の駒である「飛車」を上手く使いこなせるかどうかで、勝負が決まります。そのため、「飛車」と「銀」で攻めまくる棒銀戦法は、勝つための将棋を考える上で、初期に習得しておきたい戦術です。」などのように非常にシンプルに勝つための将棋解説をすることでも人気。弟子の金井氏や横山氏らと開催しているセミナーが満員御礼となるのも頷ける理由がある。